野生と性といのちの誕生
快い痛み

 エンドルフィンは赤ちゃんが生まれ出ようとするとき、産婦のかだらの中に放出される。これは快感を司るホルモンといわれていて、十分に分泌されていると、産婦は陣痛と陣痛の合間にとても穏やかな表情をする。まるでどこかをふわふわとさまよっているかのようにも見える。お産という“性の営み”は苦しいばかりでなく、「なんだか気持ちいい」という感覚をちゃんと用意しているのだ。
 陣痛の痛みは、ときとして快楽に変わりうるものなのではないかと思う。実際「殺してほし〜!」と泣き叫ぶ産婦もいる。まれに「思ったより痛くなかった」とケロッとしている人もいるけれど、想像していたより十倍痛かったという人もいるし、百倍痛かったという人もいる。私は「陣痛は痛いですよ」とクラスで何度も言っているつもりなのだけれど、それでも「こんなに痛いなんて教えてもらってなかったあ」と言う人は多い。
 けれど、産んでしまえば「あ〜楽しかった」などと同じ女が言ってのけるのが、お産のこわいところなのだ。これは、奥の深い性的な快感だ。さらに、こうした肉体的苦痛をのり超えることによって、女性は自信を産み出すことができる。
「こんなに大変なことをやり遂げたんだから、もう何も恐いものはないわ」と。
 とはいえ、エンドルフィンが十分に活躍するようなセクシーなお産は、パックになって用意されているわけではないから、医療サイドに任せるだけでなく、自分たちでつくりあげるようなつもりで臨まなければ得られない。分娩室の環境やそこにいる人たちとの信頼関係、そしてできるだけ薬剤などに頼らないお産ができるように、妊娠中からの準備が必要になってくる。